創業期の資金繰りの基本:入金・支払い・納税の時期をそろえる

創業して最初に困るのは、赤字より「現金が足りない」ことです。売上が立つ日と、お金が入る日はずれます。入金・支払い・納税の時期を並べて、資金繰りを見える形にする方法をまとめました。
利益と現金は別のもの
帳簿の上の利益は、売上から費用を引いた数字です。現金は、実際に入って出たお金です。たとえば、3月に100万円の売上を立てても、請求書の支払いが5月末なら、3月と4月はその分の現金がありません。その間も、家賃・給与・社会保険料は出ていきます。創業期は、この「入金より先に出ていくお金」を、資金で埋められるかが分かれ目になります。
入金と支払いの時期をそろえる
入金のサイト(請求から入金まで)が長いほど、必要な資金は増えます。請求書は、締め日の直後に出し、支払期日を契約書や見積書に書きます。発注側の立場では、下請法が改正されて令和8年(2026年)1月から「取適法」(中小受託取引適正化法)になり、対象の取引では、物品等を受け取った日から60日以内で、できる限り短い期間内に代金の支払期日を定める必要があります(中小企業庁)。手形払いも認められなくなりました。取引が対象になるかは、資本金などで決まるため、取引先との契約の前に確かめます。逆に、自社の支払いは、仕入先との約束を守りながら、入金の時期に合わせて組みます。
1年目の資金の出入りを並べる
資金の出入りを、創業時と毎月、年に数回に分けると見えやすくなります。
- 創業時:設立の実費(合同会社で約6.3万円、株式会社で約19.5万円〜)、内装・設備、敷金・保証金、複合機・パソコン、開業前の家賃・人件費
- 毎月:給与、社会保険料(会社負担は給与の約15%)、家賃、通信・複合機、税理士の顧問料、仕入れ
- 年に数回:源泉所得税(毎月10日の納付。納期の特例を使うと7月10日・翌年1月20日)、決算後の法人税・消費税の納付(決算日の翌日から2か月以内)、法人住民税の均等割(標準で年7万円。赤字でもかかる)
納税の時期は、決算の2か月後に集中します。1期目の利益が出たら、その分の納税額を、決算の前から別に残しておきます。
運転資金は何か月分?
運転資金は、開業してから売上が安定するまでの家賃・人件費・仕入れなどの費用です。融資の計画書では、開業後3〜6か月分を必要資金に含めるのが一つの目安です(当サイトの目安)。たとえば、月の固定費が60万円なら、3か月分で180万円です。売上が計画どおりに立たない月があっても、この分があれば、慌てずに済みます。
資金繰り表のつくり方
難しい表は不要です。月初の残高に、その月の入金を足し、出金を引いて、月末の残高を出します。これを3か月先まで書き、残高がマイナスになる月を見つけます。マイナスになる月が見えたら、①入金を早める、②支払いを遅らせる(約束の範囲で)、③借入で埋める、のどれかを先に決めます。月末の残高は、通帳の残高と毎月合わせます。会計ソフトに口座を連携すると、入出金の記録が楽になります。
会社のお金と個人のお金を分ける
法人をつくったら、会社の入出金は法人口座で行い、個人の財布と混ぜません。混ぜると、残高と帳簿が合わなくなり、資金繰り表も決算も、作業が増えます。役員報酬は、毎月同じ額(定期同額給与)を払うのが原則で、期の途中で自由に増減すると、経費にならない部分が出ることがあります。報酬の額を決めるときは、会社に残す現金と、社会保険料の会社負担(給与の約15%)まで含めて、税理士に相談します。
売上の入金が遅れたとき
入金が約束の日に来ないときは、まず取引先に連絡して、入金の予定日を書面で確認します。遅れが続きそうなら、①次の月の支払いの優先順位(給与・社会保険料・納税を先に)を決める、②仕入先に支払いの猶予を相談する、③資金繰り表を更新して、借入が必要な時期を早めに見つける、の順で動きます。支払いが苦しくなってから動くより、1か月前に気づくほうが、選べる手が増えます。
借りるなら、早めに・多すぎず
創業期の借入は、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」が基本です。新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方が対象で、融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内(どちらも据置5年以内)です。創業期は原則として無担保・無保証人です。利率は、年3.85〜5.45%(無担保・税務申告2期未満の基準利率。2026年10月1日現在。返済期間・使途・利率区分で変わります)です。申込から融資の決定までは、平均3週間程度(条件により長くなる)とされ、入金まで含めて4〜6週間を見込むと安全です(当サイトの目安)。自治体の制度融資は、さらに1.5〜3か月かかることがあります。創業関連保証の保証限度額は3,500万円です(全国信用保証協会連合会)。
注意が3つあります。第一に、融資が決まる前に契約や支払いをすると、融資を受けられなかった場合も、契約は残ります。第二に、法人の資本金の払込みにあてる資金は融資の対象外で、設立登記のあとの法人が対象です。第三に、借りた分は返済が続きます。たとえば550万円を年4.65%(当サイトの目安)・10年で返す場合、月の返済は約5.7万円です。返済は、返済前の月の利益の50%以内に収めるのが目安です(当サイトの目安)。融資の成否は、誰にも約束できません。
今日からできること
- 3か月先までの資金繰り表をつくる
- 請求書の締め日と支払期日を決める
- 納税と社会保険料の分を、別の口座に分けておく
- 融資を使うなら、物件の契約日・工事の発注日から逆算して、申込日を決める
- 税理士に、決算前の納税額の見込みを聞く
出典(確認日 2026-10-03)
- 中小企業庁 2026年1月施行 下請法は取適法へ 改正ポイント説明会 https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/2025/251014_01.pdf
- 政府広報オンライン 2026年1月から下請法が「取適法」に https://www.gov-online.go.jp/article/202511/entry-9983.html
- 日本政策金融公庫 新規開業・スタートアップ支援資金 https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/01_sinkikaigyou_m.html
- 日本政策金融公庫 金利情報(令和8年10月1日現在) https://www.jfc.go.jp/n/rate/
- 日本政策金融公庫 創業支援 Q&A https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/faq/
- 国税庁 No.2505 源泉所得税の納期の特例 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2505.htm
- 法人税法74条(確定申告) https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
- 全国信用保証協会連合会 創業関連保証(保証限度額)
